photo/report:乙夜
2020年5月18日、自衛隊の新小銃及び新拳銃が防衛省内で報道公開された。現在陸上自衛隊で使用している89式小銃は、その名の通り1989年に採用されたものでおよそ30年ぶりの更新である。30年前と現在では、作戦環境も任務も変化しつつあり、装備の更新は必須ともいえる。
新型小銃の正式名称は、20式5.56mm小銃(にいまるしき 5.56ミリしょうじゅう)。海上自衛隊では1(ひと)2(ふた)の呼称に対し陸上自衛隊では1(ひと)2(にい)の呼称である。
新型小銃の役割は、89式5.56mm小銃の後継として普通科部隊等に配備し、各種事態に対処するためにある。
大きな特徴は、離島環境への対応を意識し、排水性能や耐塩害性を向上している事。そして、射手によって調整できる頬・肩当てによって操作性が向上している事。ピカティニーレイル、M-LOCK等を導入し、各種パーツを取り付けしやすく、
拡張性を持たせている事などが挙げられる。弾薬、銃剣等は89式と同じものを引き続き使用する。
調達価格はおよそ9億円(3,000挺)、1挺あたり約30万円弱となる。水陸機動団をはじめ、即応機動部隊や、各方面隊の普通科部隊、教育部隊から優先的に配備予定とのこと。
諸元比較
■ 20式小銃(左)
全 長:783~854 mm
重 量:3,500 g
銃身長:330 mm
装弾数:30 発
■ 89式小銃(右)
全 長:916 mm (折曲式:670~916mm)
重 量:3,500 g
銃身長:420 mm
装弾数:20/30 発
以下
20式5.56mm小銃→ 20式
89式5.56mm小銃→ 89式
とする。
20式は、89式と比較すると、全長・銃身長ともに短くなった。今のところ、基本教練等に変更は無いとはいう。銃床を最長にすれば可能と説明していたが、背の高い隊員には「立て銃」等の動作が難しいように感じる。
筆者が以前、自衛官向け展示会の豊和工業ブースで、展示品を触らせてもらった感想としては、89式と同じ重さではあるが、構えた際にとても軽く感じる。(筆者個人の感想である)フロントの重量が軽くなり、重心がより握把(グリップ)に近づいたためだ。グリップバイポッド(フロント部分の二脚付き握把)も、構える際の負担を軽減している。
また、スライド止め(ボルトキャッチ)と弾倉止め(マガジンキャッチ)、切替え軸(セレクター)が銃の左右についているアンビタイプで、左右に持ち替えた際も操作しやすくなっている。開発されたばかりということで、折曲式の開発や20発弾倉の開発は未定とのこと。
以下、銃口から床尾を、順を追って紹介する。
銃口は、89式が消炎制退器(フラッシュサプレッサー&マズルブレーキ)であるのに対し、20式は消炎器(サプレッサー)である。集弾性能が向上し、制退器が無くても要件を満たしているのと、コストダウンになるため省略された。また、06式小銃てき弾も発射可能。
銃剣は、89式のものを継続して使用する。
銃剣の鞘は更新され、モールに取り付けられるようテープが縫い付けられている。また、鉄線鋏や栓抜き部分は排除。よく破損したりカバーの脱落をする箇所だが、使用されることがほぼ無く、省略されることとなった。
銃身、被筒部ともに短くなった。肉抜き加工が、フロントの軽量化に貢献している。
負い紐環(スリングスイベル)は、米国MAGPUL社製。ロゴが入っている。
被筒部の左右に3列、下部に2列、M-LOCKという追加の装備を付けるためのスロットが用意されている。使わない際はカバーをしておくことができる。
被筒部上下には、20mmピカティニー規格のレイルが用意されており、スコープやグリップ等、装備を簡単に追加することが出来る。89式にライトやグリップをビニールテープで固定していたような時代は終わり、世界の標準的な基準へ追いついたと言える。
追加パーツ類の生産は未定。バトラーの送信部や薬莢受けは取り付けられるとのこと。
89式を構えた際に右側にあった槓桿(コッキングレバー)が、20式では左側に配置されている。右手で握把を握り、敵方を狙ったまま左手で操作することが出来る。先にも述べた通り、スライド止めと弾倉止めは左右で操作可能。
スイス B&T社製のグリップバイポッドは標準装備となる。照準する際のフォアグリップとしての機能と、伏せ撃ちする際の二脚としての機能、二役を果たす。
89式の脚よりもコンパクトになる。スイングはしない。
クイックリリースレバーにより、ワンタッチで取り外し可能。工具が不要なので、状況に応じて素早く対応することができる。
またこれらのパーツ類は試験段階であり、今後変更される可能性もある。
グリップバイポッドを外した状態。この状態で構えても、とても軽く感じる。
イタリア、BERETTA(ベレッタ)社製 GLX160A1。フロント下部の20mmレイルに、擲弾発射器(グレネードランチャー)を取り付け可能。(取付には工具が必要)40×46mm弾を使用する。
試験用小銃のロゴ。ナンバーも000001である。
切替え軸は、「ア・タ・レ」の3種。ア=安全(セフティ)タ=単発(セミオート)レ=連発(フルオート)
安全装置の次が単発と、世界の一般的な基準に準じた、分かりやすい配置に変更されている。
89式にはあった3点射が、需要が少なくなったことで省略されている。3バースト機能を排除することで簡略化・コストダウンもされている。
MAGPUL社の樹脂製の弾倉(マガジン)。従来のものと比べ、軽量で、錆びにくい。89式との互換性もある。残弾は、透明の窓と、脇に書かれた数字で確認できる。
溝に白等のインクを流し込むことで、ナンバリングが可能。(写真はデジタル加工)
槓桿を引き、スライドを開いた状態。
作動方式はガス圧式。(恐らく、ロータリーボルト/ショートストロークピストン式)
ディオン光学技研製、March(マーチ)1x-8×24 Shorty。全長212mmのショートスコープだ。倍率は1x-8×24で、遠距離の射撃にも対応。もちろん、スコープを外してダットサイトを使用したり、照星/照門で見出しすることも可能。
床尾(ストック)の根元にも負い紐環が用意されている。
伸縮可能な床尾を一番伸ばした/縮めた状態と頬当て(チークパッド)を一番上げた/下げた状態。
床尾の長さは、6段階に伸縮可能。床尾末端のボタンを押しながら操作可能。
部品点数は、89式とさほど変わらないという。近代的なアサルトライフルになったことで、今後着用する装備の更新にも期待したい。
Youtube動画
これまで国防を担ってきた64式小銃、89式小銃は、じきに20式小銃へと更新されていく。隊員や状況に合わせたフレキシブルな調整ができることで、従来の、装備に身体を合わせるという根性論ではなく、合理的な訓練・任務が行える。特に、徐々に雇用が増えつつある女性自衛官の活躍も、後押しするだろう。
実際に訓練で使用されるまでは不明な点もあり、仕様に賛否両論あるかもしれないが、隊員個人の負担が軽減されることは、隊員の生存率にも関わる事であり、防衛力もより向上するものと思われる。
「国産でなければならないのか、輸入で良いのではないか」という意見も見られる。確かに、輸出することなく大量生産しない国産品は、コストが高くなってしまう。しかし隊員1人1人に貸与され、バディ(相棒)として大切に扱われる小銃は、陸上自衛隊を代表する武器ともいえるし、任務に命を懸ける自衛隊員にとって小銃は、様々な武器がある中の、最後の砦である。自分の国を守るものは、やはり国産であってほしいと筆者は思う。
情勢に合わせた装備の更新は、国土や国民、隊員の命を守ることになる。今後も随時、行われていくことを願っている。
次回、【9mm拳銃 SFP9 報道公開】 へ続く。