警察犬・警備犬 訓練展示  - ポリスミュージアム特別展で見られた、ハンドラーとの絆 –

警察犬・警備犬 訓練展示  - ポリスミュージアム特別展で見られた、ハンドラーとの絆 –

取材:乙夜

2月9日、都内の警察博物館にて、ポリスミュージアム特別展が開催され、警察犬・警備犬の訓練展示が行われた。翌週16日の展示は雨天中止となり残念だったが、犬好きの私が心待ちにしていた訓練展示である。限られた写真だが、警察犬の魅力について紹介したいと思う。

犬の嗅覚は人間の約4,000倍、特定のにおいでは100万倍以上とも言われ、古くから「鼻で考える動物」と言われている。警察犬は、その嗅覚と、日頃の訓練によって研ぎ澄まされた忠誠心を生かして、警察の捜査に力を発揮するのである。


■警察犬とは

警察犬・警備犬とは一括りにされがちだが、それぞれ任務が違う。警察犬とは、犯罪捜査や災害救助などの警察活動を支援する犬で、刑事部に所属する。

日本警察犬協会が指定する警察犬の犬種は、ジャーマンシェパード、ドーベルマン、エアデールテリア、コリー、ボクサー、ラブラドールレトリバー、ゴールデンレトリーバーの7種。

日本に警察犬が登場したのは、大正元年12月。警視庁が防犯広報活動のために、イギリスから2頭の犬を輸入し訓練したことを
始まりに、昭和27年には犯罪捜査に使い始め、昭和31年3月からは、直轄県制度が発足した。

警察犬は任務別に分けられている。足跡追求犬は、犯人や行方不明者などのにおいを記憶し追求する。
特殊犬は、拳銃や実弾を捜査する銃器探索犬、覚せい剤などの禁止薬物を捜索する薬物捜査犬、人の目に見えない血液を追跡する血液捜査犬に分かれる。そしてハイブリッド犬は、銃器と薬物両方の捜索を行う警察犬である。現在、合わせて76頭の警察犬が、事件発生に備え各種訓練に励んでいる。

■警備犬とは

警備犬は、災害現場で行方不明者の探索や、麻薬や爆発物の捜索、テロリスト制圧などを請け負う犬で、警備部に所属する。

犬種はジャーマンシェパードとラブラドールレトリバー。昭和55年8月、警視庁警備犬は全国で初めて警備警察活動を目的として導入され、担当者5名、警備犬4頭で運用が始まった。国内の災害だけでなく、国際緊急援助隊として海外派遣もされている。

それぞれ犬の選定については、犯人の追跡や確保ができるだけの体格と体力を持つだけでなく、飼い主に対する忠誠心や訓練能力に優れた、2~10歳ほどの犬が選ばれる。

■警察犬の生活

3か月のテスト期間と、約6か月の服従訓練、約6か月の追求訓練・臭気選別訓練を終えると初級・上級・特別上級の検定が待っている。晴れて上級に合格すれば、犯罪現場において活躍できるのだ。

警察犬の一日は、実に充実している。起床は06:00。自分の部屋から出て排便を済ませ、部屋に帰る。訓練された犬ならではの行動だ。午前中は全ての基本となる服従訓練をし、11:00にブランチ。12:00には担当が犬舎を掃除する。13:00から3時間、足跡追求訓練や捜索訓練を行い、終了後に夕食。栄養バランスを考え、犬それぞれに適した食事が与えられる。食事をした後は夜間訓練を行い、21:00に就寝。

新隊員のような暮らしだが、ハンドラーは自分の担当以外の犬の健康すらも気遣うといい、大切に管理されているのである。

■犬と人

そもそも犬が人間と共に暮らし、人間の仕事を手伝うようになったのはなぜか。4万年程前から(諸説あり)犬と人間は共同生活をするようになった。様々な動物の中で、なぜ犬が最も早く人間と同盟関係を結ぶようになったのか。犬は進化の過程で群れによる集団行動を選び、他の動物と比べ高度な社会性を構築したことが大きな理由の一つだろう。

犬が人間になつくのには、ふたつの理由がある。ひとつは、犬は飼い主を母親とみて、一生その考えが残る事。もうひとつは、犬は飼い主を「群れのリーダー」として見ること。どちらも犬の社会性が発達した結果である。

犬種によっても様々だが、作業好きで働き者な犬も多く、動き働くことでストレスを発散し、人を助けることを楽しいと思う犬も多い。人のできないことを犬が行い、その逆も同じく、互いに支え合ってきた人間の古き良きパートナーなのである。


ハンドラーに追従して歩くユンゴ号。警察犬の名前には末尾に「号」を付けて呼ぶ。好物はヨーグルトと、可愛らしい一面も持つ。

 

警察博物館は、子どもたちにより分かりやすく、楽しめる内容へと2017年4月にリニューアルオープンしている。今回のイベント
も、子どもから大人まで楽しんで見られる内容となっていた。

 

訓練展示の担当者たち。警視庁の刺繍が入った現場鑑識活動服と帽子を着用している。ハンドラーはやりがいと責任感を持って、警察犬の育成に励んでいる。現場で活躍できる犬を育てることが目標だと、警備第二課の巡査長は語る。勿論、皆犬好きのようだ。

 

訓練展示が始まった。ハンドラーが指示を出したまま、警察犬から離れる。犬が飼い主から離れるのは不安に思うことだが、離れた場所で命令を聞くことも、重要な要素である。

 

離れた場所からの指示、「待て」。一見簡単に見えるが、多くの人に囲まれている中で行うのは犬のメンタルに大きな変化をもたらし、難しい事が多い。

 

難なくクリアするユンゴ号。心なしか嬉しそうな表情。犬も人も、褒められればやる気が出るものである。

 

動物にも心があり、感情がある。上手にできたら褒めてやることが、躾のコツであると思う。

 

犬の身体能力は高く、およそ70cmほどの高さのハードルも、難なく飛び越える。

 

現場鑑識活動服のポケットには、トリート(ご褒美のおやつ)が入っているようだ。

 

通常、訓練用のダンベルは1kg程の重さが使われる。鍛えられた警察犬の筋肉にも注目していただきたい。

 

上手に指示を聞くことができたら、ご褒美としてボールが与えられる。少しだけ遊んだら、次の指示が待っている。

 

ムーンロケット号は、薬物捜査を行った。5か所のうち1か所に隠している、違法薬物のにおいを染み込ませたタオルを発見するという実演である。

 

速やかに実施するムーンロケット号。普段から訓練を受けていることを感じさせる、余裕の表情である。訓練されていなければ、難しいことなのだろう。

 

違法薬物の目の前に座ることで、ハンドラーへ合図する。

 

無事に違法薬物を見つけ出すことができた。速やかな発見に、ハンドラーも笑顔になる。

 

凛々しい警察犬の表情は、自身の任務を自覚した、立派な警察の一員と感じさせる。

 

以下は、展示物を紹介する。警備犬担当者用の活動服。イベントでハンドラーが着用していた、紺色の現場鑑識活動服とは色が異なる。トリートバッグも付属。

 

移動の際に警備犬を搬送するための搬送箱。航空会社の「LIVE ANIMALS」のステッカーが残っていた。金属製だが、中は簀の子が敷かれているため、夏は通気性が良く、冬は冷えすぎない構造になっている。

 

警視庁警備犬と書かれた訓練用ハードル。金属製のフレーム上部には、犬が怪我をしないよう、クッションが巻かれている。

 

犯人制圧の任務で使われる革首輪と、人の捜索で使われる鈴付きの首輪。警察犬は着けられる首輪によって自分の任務を認識する。

 

拳銃所持犯人の検挙に貢献したブラックシャドー号に対する警視総監賞の賞状も展示されていた。犬も人間と同じく表彰される。

 

競技会等で使用されている木製ハードルと同様の作り。目測でおよそ70cmほどの高さ。犬の身体能力の高さを改めて感じる。

 

展示終了後に、記念撮影のコーナーも設けら、子どもたちに大人気だった。

 

犬は言葉を話すことが出来ないので、ハンドラーは犬の些細な変化にも注意するよう心掛けているという。
健気に、誇りをもって任務に励む警察犬と、それを支えるハンドラーたちを、犬好きとしては応援せずにはいられないのである。

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